東京の匠の技

造園

一般社団法人 日本造園組合連合会 東京都支部 支部長

米川道雄さん

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人が手と技で、自然を造り出す。周囲の景観を取り込み、背景に山並みがあれば、借景として、そこに生かす。庭とは、造作された自然の移ろいを愛でるもの。木々の色合いに季を見、水面を渡る一筋の風に節目の到来を感じ、流れ落ちる清流にとどまることのない時を見る。若き青竹も、時と共に褪めて飴色となり、やがて朽ちる。その移ろいこそが風情であり、庭という小さな宇宙に人が描くものの真髄である。

造園とは、環境づくり

“造園”には、庭づくり、植木の剪定というイメージが強い。だが、その領域は意外と広い。
「住宅の庭、植栽管理をはじめ、公共空間としての公園や緑地の整備、学校や病院などの公共施設の緑化、環境整備。あるいは、景観づくり、都市計画、里山保全といった領域まで関わる人もいます。」
環境づくりという広い領域に関わる、造園。その歴史を紐解くと、古くは飛鳥時代にまで遡る。
「1999(平成11)年に、奈良の明日香村で、飛鳥時代の宮廷庭園の遺跡が発掘されており、その頃から庭づくりは行われていたようです。平安時代には、京都の宇治平等院の庭園に見られる極楽浄土の世界観を表した浄土式庭園、鎌倉時代には、京都の天竜寺のような、禅思想を背景に自然景観を生かした庭園があり、その流れは室町時代になると、さらに洗練され、京都・龍安寺に代表される石と白砂で表現した枯山水という様式になります。その後、安土桃山時代には、千利休によって茶道が完成し、“侘び・寂び”を基調とした“露地”という簡素な茶庭ができるなど、今の庭づくりに連なるものとなります。」

知識と技術、そして流儀

造園に求められる技術は多様で、覚えることは広く、深い。
「樹木の知識、庭を見せるための美的センス、石に対する造詣、砂利や砂の扱いなど、たくさんあります。石を動かす技術も、重機が入らない場所では、三又を組み、石にワイヤーをかけ、チェーンブロックで吊るして人力で動かします。さらに狭ければ、丸太などのコロを入れ、その上に石を乗せて移動する。」
昔と今はつながっている。
「昔の技法を伝承しているのが、茶庭づくりです。造園は茶室に入る手前までが領域ですが、茶の世界の決まりごとを知らないとつくれません。茶室の手前には、蹲(つくばい)という手を清めるための手水鉢(ちょうずばち)が置かれますが、その据え方にも決まりがある。しゃがんで柄杓を持つのにちょうどいい高さ・場所に据え、蹲を中心に、右と左に役石(やくせき)を置きます。一つは、冬の寒い時に湯桶を置く、湯桶石(ゆとうせき)。もう一つは、蝋燭や提灯を置く手燭石(てしょくいし)で、これらの役石も、表千家、裏千家の流儀によって高さが異なります。」

本物の自然とともに

自然相手だけに、規格はない。石や樹木をいかに生かし使うか。美しく見せるための技があり、そこが腕の見せ所。
「石一つにも顔があります。石と向き合い、正面と天地を見極める。木には表と裏があり、正面になる表情、枝振りをしっかり見極めます。」
今も新しいことを吸収する。その意味では、一生修業。
「古いものを伝えていく必要はありますが、一方で、昔の知見を生かして、新しいものにつなげていくことも重要です。建物が進化しているなら、付随する庭も進化しなければ、お客様の要望に応えられません。今までも、そうやって進化してきたからこそ、残ってきたわけです。」
本物を扱うことに意味がある。本物の自然と向き合い、その移ろい、経年変化を楽しむ。それこそが“庭”の本質であり、造園そのものもまた移ろい、変化する。だが、人が自然を求める限り、その技術はつながっていく。

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