東京の匠の技

製本

東京都製本工業組合

【洋製本】川上幸夫さん
【和製本】渡邊博之さん

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紙は生きているという。気温、湿度、天候、環境の影響を受けて変化し、人と同様、老い、やがて寿命を迎える。伝えたい・残したいという人の思いをひと綴りにし、次につなぐ。製本とは、人が紡ぎ出す知に形を与え、その価値を次につないでいくための技術ともいえる。

製本を巡る歴史

製本を巡る歴史

人が記録を残す術として考案したものの歴史を紐解くと、古代メソポタミア文明の粘土板を最古に、古代エジプトで生まれたパピルス紙を巻物状にしたものなどが見られる。紀元前2世紀頃、中国で発明された紙は、書写の道具として広まり、その技術が日本へ伝わり、和紙を生む。西欧へは15世紀頃に伝わり、印刷術の発明によって紙の需要が爆発的に拡大、そこから製本技術が生まれる。 日本における製本の起源は、平安期に中国から伝わった「巻子本(かんすぼん)」といわれ、その後、巻き取りの読みにくさから巻子本を一定の幅で折りたたみ、前後に表紙をあしらった「折本」が生まれる。だが、使い込むと折り目が切れてばらけるため、二つ折りにして、裏に墨が染みないよう袋とじにし、頁順に綴じた「和綴本」が、伝統的な製本の始まりとなる。和綴は江戸時代に庶民にも広まり、やがて明治初期に、文明開化の足音とともに、西欧から洋本が入り、その後、主流となっていく。

知の集積を綴じる技術―洋製本

知の集積を綴じる技術―洋製本

16歳から製本一筋。修行を積み、39歳で独立。主に大学の研究書の製本に携わる。「世界中の文献が集まる大学の図書館に収蔵する研究書を、1ヵ月に1,200冊程製本します。」 研究成果という知的財産の集積を支える仕事。自身も学びの必要性に気づき、大学へ進み直した。 「研究書なので、原語で活字を拾わなければなりません。英語、フランス語、ロシア語など、基本的な綴りは書けるようにしています。」 1991年、製本研究のため渡英。 「オックスフォード大学のボドリアンライブラリーの革装の西洋製本を見せていただき、著名な製本修復家・バーナード・ミドルトン氏に洋製本を教わりました。」 これを機に造詣を深め、今、希少本の修復にも携わる。 「修復は、その本が作られた元の技法に沿って行います。表紙の材質、紙質と状態、色合いなどに応じた技法を身につけなければできません。常に勉強です。」 求めるものに応える技がなければ、職人とはいえない。 「技術は正直です。高度な技術が求められる修復の場面では、それに対応できる技がなければ、破損につながります。」 製本とは技術であり、形である。 「価値のある中身を素晴らしい装丁で引き立てられたら、最高です。ものづくりは結局、その人自身。人間性を高めなければ、いい仕事はできません。」 本に込められた想いを綴じること。製本とは、伝えたいという想いを“綴じ”、そして“込める”ことである。

受け継いだ伝統を未来へつなぐー和製本

受け継いだ伝統を未来へつなぐー和製本

父の背を見ながら、製本の中で育った。洋本主流の折、伝統を守り伝えなければという使命感で、機械と手作業の融合を図っている。 「和綴だけではなく、洋本、特殊本も含めて、多様な技を機械と融合しながら、新しいものにチャレンジしています。」 和綴では、本を開く側の「小口」を揃えて仕上げるのが難しい。 「小口袋といって紙を二つ折りにして揃えます。洋本は、折って三方を裁断しますが、和綴は切らないので、小口をいかにきれいに揃えるかが、本の仕上げを決めます。」 紙を捌く技は、身体で覚える。 「指遣い、加減、紙質・大きさによって持つ場所も変わる。基本は教えられても、コツは掴むしかありません。でも慣れると、所作が変わる。一つ一つの動作の無駄が省かれ、シンプルになっていく。」 本は生き物だと思う瞬間がある。 「作った時にしっくりこなくても、しばらく置いて手に取ると、“お、いいな”と感じる。熟成したというのか、紙の状態と湿度のバランスが取れて、すべてが一体となり、落ち着いた状態になる。いいものを作った実感が湧いてきます。」 和綴の技術が、思いも寄らないところで生かされる時が来るかもしれない。 「デザイナーやアーティストの発想で、和綴を新しい段階に引き上げてくれる可能性もあると思います。その時に、技を生かせるようにしたい。」 受け継いできた技術は、絶やさない。それは、新しい未来のためでもある。

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東京都製本工業組合
〒173-0012 東京都板橋区大和町28-11

電話番号:03-5248-2451
公式ホームページ:https://tokyo-seihon.or.jp

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